おしゃれな店構えと、おいしいコーヒーで人気の前橋のカフェ「13 COFFEE ROASTERS」。全3店舗のカフェを経営する櫻井喜明さんに、店づくりや焙煎のこだわり、地元・前橋でお店を営む理由などを伺いました。
コーヒーで人をつなぎ 前橋を賑わせ醸成させる
-3つのカフェをオープンするまでの経歴を教えてください。
櫻井 美大を卒業してから海外でCGの勉強をして、帰国後にCMの制作会社に入社しました。でもすぐに体を壊してしまい、23歳くらいで地元の前橋に帰ってきたんです。地元で専門学校の講師などを務めたあと、27歳で再び東京に出て、スタジオで8年間、広告で使用する写真を合成したりするフォトレタッチという仕事に就きました。その後、フォトレタッチャーとして独立して活動しながら、37歳で友人と前橋にロースタリーカフェ「13 COFFEE ROASTERS」をオープン。現在はレタッチャーとのダブルワークで3店舗を運営しています。
-なぜカフェをオープンしたのでしょうか。
櫻井 25歳の時に友人に誘われて、いつか一緒に何らかのお店を作る約束をしたんです。当時働いていた専門学校の地下1階にあったカフェが、群馬にいるクリエイティブな人たちが集まるような場所で、その空間が好きだったことからカフェがいいなと思いました。実は僕、30歳を過ぎるまでコーヒーが飲めなかったので、お店をやるなら写真や絵を展示するギャラリーカフェをやろうと思っていたんです。でも、東京の三軒茶屋にある「Cafe Obscura」というコーヒースタンドでスペシャルティコーヒーに出会い、そのおいしさに大きな衝撃を受けてから、自宅に焙煎機を設置するほどコーヒーの世界にのめり込んでしまいました。5年ほどは個人で楽しんでいましたが、結局コーヒーをメインにしたカフェをオープンしようと思い立ち、レコールバンタンという食の専門学校のカフェコースに土日のみ1年間通って、コーヒーの淹れ方や経営の基礎を学び、いまに至ります。
異なるテーマを設けた店舗と焙煎や仕入れる豆へのこだわり
-複数のお店がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
櫻井 店ごとにテーマを設けています。例えば「13 COFFEE ROASTERS」のテーマは「日常に寄り添う」。どんな方でも入りやすいように設定したのが同店です。そこでコーヒーにはまった方は、サイフォンでの抽出をメインにしている「SHIKISHIMA COFFEE FACTORY」に行っていただくとよいと思います。空調管理された焙煎室に大小3つの焙煎機とカッピングスペースを有した焙煎所兼スタンドなので、コーヒーを通して新しい発見や刺激的な体験ができるはずです。個性の強い豆も用意していますし、深い知識のあるスタッフもいますので、マニアックなコーヒー談義なども楽しんでいただけたらいいですね。
-焙煎や仕入れている豆に対するこだわりがあれば教えてください。
櫻井 それぞれのコーヒーが持つ風味や特性などの個性を活かせる焙煎を心がけています。なかでも生産地の個性を探り、コーヒーの「質感」や「甘さ」には特にこだわって焙煎しています。仕入れる豆は、どこの農園の誰々さんがこのような方向性で作りましたと、透明性を持ってお客さまに届けることが僕らの使命だと思っていて。季節ごとのオリジンを押さえつつ、精製、品種、焙煎度合いを俯瞰的に見て、コーヒーの面白さでお客さまの毎日が豊かになるようなラインナップを意識しながら、小規模ダイレクトトレードから個性のあるたくさんの商社さままで、バラエティ豊かな仕入れを心がけています。
“前橋と言えばあのコーヒー店”と言われる存在を目指して
−近年注力していることがあれば教えてください。
櫻井 コーヒーフェスティバルなどのイベントを通して、コーヒーを中心に人のつながりやカルチャーが活性化していくような活動をしていきたいと考えています。東京と違い、ひとつの店舗でたくさんの人を集めることが難しい地方でこそ、イベントをやることの意味や面白さを感じています。むしろ、いまの時代は地方が面白いですよ。少し前までは流通が難しかったので、地方は地方のなかでしか消費ができませんでしたが、いまは違います。さまざまなイベントを機に、全国のコーヒー屋さんにもスポットが当たるようになってきているので、いまはどこでも営業できる時代だと思っています。
−“コーヒーで人のつながりやカルチャーを活性化させる”。素敵なビジョンですね。
櫻井 極端な話をすると、コーヒーは嗜好品なので、飲まなくても生きていけるじゃないですか。こんなに世界中が熱狂する嗜好品はありませんよね。イタリアなんかに行くと、みんな出勤前にお気に入りのコーヒー屋さんに寄ってバリスタと言葉を交わして、昼にも同じコーヒー屋さんに寄って、帰りにもまたコーヒーを買って軽く会話して帰ったりする。多分、コーヒーって人と人がつながるのに非常に相性がいいものなんです。それならそれを地元でやったらどうなるのかと考えて、前橋に出店したという経緯もあります。
−なぜ地元の前橋だったのでしょうか。
櫻井 留学先で出会った海外の友人たちは皆、自国の自慢話をするんですよ。そこで自分も日本や前橋のいいところを意識するようになって。地元を離れて外から地元を見ると客観的に見えるから、当たり前だと思っていたことがこんなにも面白いことだったのかと気づきました。それに、生き方や住む場所はいくらでも変えられるけど、地元だけは変えられない。だったら変えられないところで勝負した方が面白いと考えました。
−今後の展望をお聞かせください。
櫻井 やっとスタートラインに立てた気がしているので、今後は前橋を中心に、いまある3店舗をより深めていきたいです。そして “前橋と言えばあのコーヒー店だよね”と言われるぐらいの存在になれたら、“前橋発と銘打ち、地名を店名に入れた「SHIKISHIMA COFFEE」を全国、そして海外に展開していきたいと考えています。スペシャルティコーヒーの味わいは人の精神を豊かにし、コーヒーシーンは人と文化、地域コミュニティをつなぐことができると信じて、今後もチームで活動を推進していきます。
13 COFFEE ROASTERS
群馬県前橋市若宮町1-7-12 027-289-4260
定休日:水、焙煎日
*SHIKISHIMA COFFEE FACTORY、SHIKISHIMA COFFEE STANDの情報はお店のホームページや各種SNSからご確認ください
http://13coffee.com/index.html