【特集インタビュー】清香園・三橋一仁さん/明治から続く家業をリブランディングで継ぐ

1875年創業の老舗せんべい屋「清香園」。三橋さん夫妻は、2018年に閉店した同店をリブランディングし、2021年に再びオープンしました。東京で働いていた三橋さんが前橋にUターンすると決めた理由や、店づくりのこと、今後の展望などをお聞きします。

伝統を受け継ぎながらも、モダンな雰囲気を取り入れた店内

明治から続く家業を リブランディングで継ぐ

−−三橋さんは前橋のご出身で、前職では東京の百貨店で働かれていたそうですが、百貨店ではどのような仕事をされていたのですか?

三橋 マーチャンダイザーとして、アパレル商品の企画開発からバイイングまで行っていました。先代である祖母に「お店は継がなくていいから、自分の好きなことをやって」と言われていたので、家業を継ぐ気はまったくなかったんです。

−−なぜ家業を継ぐことを決めたのでしょうか?

三橋 僕が30歳のときに祖母が体調を崩して、お店を閉めざるを得なくなってしまって。お見舞いに行くたびに「清香園が閉まるのはさみしいな」と思っていました。とはいえ、当時は「前橋で店をやってもしょうがない」という気持ちで。でも、ちょうどそのころに行った前橋市内のイベントで、同世代の若い人たちと出会ったんです。建築家を目指している人、コピーライターとして頑張っている人、いろんな人がいました。そこで「若くてやる気のある人たちが前橋にもこんなにいるなら、自分が店を継いで、一緒に何かできたら街も盛り上がって面白いんじゃないか」と。その後、店に対する想いが強くなり、4年ほど前に退職してUターンしました。

−−前橋に戻って、すぐにお店を再オープンされたのでしょうか?

三橋 いえ、いきなりせんべい屋を始めるのは難しかったし、13年ぶりの前橋で、街や人の様子も分からなかったので、まずは地域おこし協力隊の隊員として働きながら、開店準備を進めました。オープンしたのは、コロナ禍の2021年4月です。

定番商品である「貴婦人巻き」や「麦穂」などの名前は3代目であるおじいさまが、「初雪」や「白梅」などは三橋さんが名付けた

伝統とモダンが融合した店づくり

−−お店づくりは何から始めたのでしょうか?

三橋 最初に決めたのは、量り売りという販売方法と、せんべいを入れているガラスケースを残すということでした。昔からある量り売りのケースで、祖母の宝ものだったらしいんです。でも、これだけではいまの時代に合わないし、家業をそのまま継ぐのではなく僕なりにアップデートするのがいいと思ったので、群馬に観光に来たり、帰省したりする人のお土産用にと、オリジナルパッケージを作りました。せんべいって茶色いから、パッケージはポップなカラーに。中身は同じですが、食べやすく、ファスナー付きで保存もしやすくしました。昔のものを受け継ぎながら、新しい要素も加えていこうかなと。

−−パッケージは、奥さまの里奈さんがデザインされているそうですね。

三橋 妻はカメラマンをしながら、デザイナーとして働いていたこともあるので。外注をなるべくせず、コストをかけずにやっています。ロゴも、僕が考えたものを妻に起こしてもらいました。

−−ロゴにはどんな意味があるのでしょうか?

三橋 伝統とモダン、ふたつの意味を込めました。家紋は伝統、立方体はモダンなイメージがあったので、家紋にも立方体にも見えるデザインに。商品や店の内装と同じように、伝統を受け継ぎながらも、モダンな要素も取り入れていくという、二面性を表現できたらいいなと思ったので。

−−内装も、以前のお店の面影を残しながら、いい具合にリノベーションされていますね。

三橋 内装の設計をお願いしたのも、さっき話したイベントで出会った設計士さんです。天井や小上がりを作ってもらいました。解体作業や壁作りは、近くにある建築系の学校の生徒たちに声をかけて、みんなでDIYしました。ライムグリーンをブランドカラーにしたので、パッケージや内装にもプラスしています。先々代にあたる僕の祖父は緑が好きだったので、リブランディング前にも緑が使われていましたが、もっと濃い緑だったんです。僕たちの代では、同じ緑の中でもいまの時代に合ったライムグリーンを選びました。

贈答箱入りせんべい。ポップなカラーを用いたパッケージが目を引く

人と人が繋がることができる場所

−−以前店内で開催されたDJイベントでは、100人以上のお客さんが集まったそうですね。

三橋 そうですね。DJイベントでは、昔せんべい作りに使っていた台を、DJがターンテーブル台として使ってくれました。本当は捨てようか迷っていた台でしたが、新しい使い方があったらいいなと思い、木で囲ってキャスターをつけてもらったもので。「こんな使い方ができるんだ」と気づけて面白かったですね。

−−DJの方や、たくさんのお客さまなど、お店を通していろんな人との繋がりができているのですね。

三橋 先日のイベントでタコスを作ってくれたのも、料理が大好きで、会社を休職して料理学校に通っていた妻の友人でした。その友人は出店経験はありませんでしたが、去年、イベントで水餃子を作ってもらったら、お客さんからとても好評で。友人もすごく喜んでくれたので、今度はタコスを作ってもらおうということになったんです。そんなふうに、新しいことをやりたい人に清香園を使ってもらえたら、また新しい人同士も繋がることができていいんじゃないかなと思っています。

−−清香園さんのようなお店が増えると、前橋がもっと盛り上がりそうですね。

三橋 2020年に白井屋ホテルができて、前橋にいろんなところからお客さんが来てくれるようになりました。それはすごくいいことだから、清香園含め、昔からある個人商店がもっと頑張って、白井屋ホテルに寄った帰りにお客さんが散策しに来てくれるようになったら、街がさらに面白くなりそうですね。

−−今後の展望があればお聞かせください。

三橋 DJやタコスのイベントのほかにも、3月にはくろぶちやさんとコラボレーションしたおつまみとクラフトビールのイベント、4月にはお台所さんのポップアップを開催しました。そういったイベントをもっと増やしていきたいですね。あとは飲食以外にも、アーティストさんの展示や、これから新しいことをやりたい人にも清香園を使ってもらえたら、また新しい繋がりもできるし、街に対する刺激にもなりそうです。清香園の150年近い歴史を振り返ると、商品を作って販売するというコミュニケーションをお客さまと続けてきましたが、今後は人と人が繋がっていくような、そんなお店にリブランディングできたらいいなと思っています。

三橋一仁(みつはし かずひと)さん
1989年生まれ、群馬県前橋市出身。清香園5代目。大学卒業後、都内百貨店でマーチャンダイザーとして勤務したのち、30歳で前橋にUターン。2018年に惜しまれながらも閉店した同店を2021年4月に新装開店させた

清香園

群馬県前橋市本町2-8-12

027-221-5683

営業時間:9:30〜18:00

定休日:水、木、日

清香園
清香園 群馬県前橋市にある明治8年創業の老舗煎餅屋『清香園』のホームページです。ひとときのおもてなしや暮らしを愉しむ人にさりげない時間を演出します。

写真:三橋里奈

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